オートクチュール刺繍をしていて、
ヴィンテージ素材を探していると、きっと一度は目にするのが、ゼラチン製のスパンコールです。
やわらかい光り方と、どこか奥行きのある表情。
現代の素材にはない魅力があります。
一方で、手に取ると少し扱いづらそうだと感じる素材でもあります。
「ゼラチン製は水に弱いらしい」
「実際に濡らしたら、どうなるんだろう?」
そこで今回は、
ゼラチン製スパンコールを実際に水に浸し、その変化を観察してみました。
ゼラチン製スパンコールとは?

ゼラチン製スパンコールは、
主に1920年前後に作られていた、動物性のゼラチンを原料とする素材です。
当時は、フランスやチェコ(当時のボヘミア地方)を中心に生産され、
オートクチュール刺繍や装飾衣装に使われていました。
現在主流のプラスチック製スパンコールとは違い、
光を強く反射するというより、内側からにじむような、やわらかな輝きが特徴です。
その反面、湿気や水、摩擦に弱いと言われており、
オートクチュール刺繍の世界でも扱いには注意が必要な素材として知られています。
現在では新しく生産されることはほとんどなく、
多くはヴィンテージ素材として流通しています。
水に浸してみた|今回の実験について

ゼラチン製スパンコールの耐水性を知るため、
実際に水に浸して変化を観察しました。
使用したのは、黒とベージュの2種類のゼラチン製スパンコールです。
どちらも形やサイズは近いものを選びました。
浅めのガラスのコップに水を入れ、
スパンコールを沈めた状態で置き、
以下の時間ごとに様子を確認しました。
10秒/5分/10分・15分
途中で取り出したものは、キッチンペーパーの上に置き、見た目や質感の変化を観察しています。
水に浸した結果
まず、水に入れた直後の様子です。
スパンコールを水に沈めても、10秒ほどでは大きな変化は見られませんでした。
見た目だけで判断すると、
「本当に水に弱いのだろうか」と感じるほどです。
5分経過
5分ほど水に浸したあと、
スパンコールを一つずつ水から取り出して観察しました。

この時点で、最初に目立った反応があったのはベージュのスパンコールです。
表面に細かなぷつぷつとした凹凸のようなものが現れ、それまでマットだった質感が、ラメのようにきらきらとした見え方に変わっていました。黒のスパンコールは、大きく形が崩れることはありませんが、全体が少し浮腫んだように見え、周囲の輪郭がわずかに曖昧になった印象を受けます。
この変化は、ゼラチン素材が水分を吸収し、表面の層がゆるみ始めたことで起きていると考えられます。黒は表層が膨らむことで輪郭が甘くなり、「少し溶けたように見える」状態に。一方ベージュは、パール調の表面構造が乱れ、光の反射が変わったことで、粒子が浮いたようなラメ感のある輝きに見えました。
一見すると光り方が増して「きれい」に感じられますが、これは素材が安定した状態ではないことを示しています。
10分・15分経過
10分、15分と時間が経つにつれて、スパンコールの変化はよりはっきりしてきました。

全体的に、厚みが増したように見え、
表面の張りや輪郭が、少しずつ失われていきます。
全体的に厚みが増したように見え、表面の張りや輪郭が少しずつ失われていきます。
黒のスパンコールは、水の中や横から見た状態では、黒さが失われ、完全にシルバーのような色味に変化しました。一方、上から見た状態では黒く見えるため、見る角度や環境によって印象が大きく変わります。

大きく崩れることはありませんが、乾いた状態とは明らかに違う表情になっています。
15分ほど水に浸したスパンコールは、見た目だけでなく、触ったときの感触にも変化が現れました。
この動画では、水から取り出したスパンコールを小さなスプーンで軽く曲げています。
5分の時点では、スプーンで曲げられるほどの変化はありませんでしたが、15分経過したものは、指やスプーンで力を加えるとしっかり曲がり、離すとすぐに元の形へ戻ります。ゆっくり戻るというより、ゴムのように反発する感触でした。
この状態は、素材が水分を含むことで、硬さが増したのではなく、弾力として反応している段階だと考えられます。ゼラチンが水を吸収し、構造そのものが一時的に変化しているため、形は保たれていても、乾いた状態とはまったく異なる性質になっています。
見た目だけでは判断しづらいものの、触れることで初めて分かる変化があり、実際の刺繍作業では特に注意が必要な状態だと感じました。
刺繍に使うなら?ゼラチン製スパンコールとの向き合い方
今回の実験では、乾燥させることで見た目はおよそ8、9割ほど元の状態に戻りました。ただし、水に触れたことで素材の性質が一度変化しているのも事実です。
FILCOTEでは、ゼラチン製スパンコールをアクセサリーに使う際、その繊細さを理解した上で取り入れていきたいと考えています。日常使いには注意点がある素材ですが、光の奥行きや表情の美しさは、他の素材には代えがたい魅力があります。
水や湿気への配慮、保管方法などを丁寧に伝えながら、この素材ならではの表情を楽しめる形で使っていく。そのバランスを大切にしつつ、作品を制作していければと思っています。
なお、今回の内容は、あくまで私自身が私的に行った実験と観察にもとづくものであり、素材の状態や環境によって結果は異なる可能性があります。
