クロッシェ・ド・リュネビルとは?フランスのオートクチュール刺繍の魅力

専用のかぎ針で裏からチェーンステッチを編み、ビーズやスパンコールを一粒ずつ留める技法。
軽やかで透明感のある仕上がりが魅力の刺繍を、私が惹かれ続ける理由とともに紹介します。

アパレル会社で企画職として働きながら、ずっと心に残っていたのが オートクチュール刺繍 でした。
学生だった頃、自由課題でコレクションの刺繍について調べたとき、その豪華さ・繊細さ・膨大な制作時間に圧倒され、一瞬で惹き込まれたのを覚えています。

社会人になってからも忘れられず、日本のオートクチュール刺繍教室を見つけて通い始めました。
その技法のひとつが、今回紹介する 「クロッシェ・ド・リュネビル」 です。


■ クロッシェ・ド・リュネビルとは?

クロッシェ・ド・リュネビル(Crochet de Lunéville) とは、フランスのリュネビル地方で発展した
オートクチュール刺繍技法のひとつです。
専用のかぎ針「クロッシェ」を使い、布の裏側からチェーンステッチを編むのが特徴。
ビーズやスパンコールもこのステッチに一粒ずつ通しながら留めていきます。

**オートクチュール刺しゅうとは?
パリ・コレクションに代表されるような有名メゾンに愛されてきた伝統的な刺しゅう

特徴

  • ビーズがまるで浮いて見える
  • 透明感のある仕上がり
  • 軽さを保ちながら豪華にできる
  • 細かい模様や曲線も綺麗に刺せる
  • デリケートな生地でも刺しやすい
  • 糸さえ通れば、刺しゅう針が通らないような極小ビーズも刺すことができる

この技法は、ディオールやシャネルなどオートクチュールの刺繍アトリエでも伝統的に使われてきました。


■ 似ている技法「アリ刺繍」との違い

同じくかぎ針を使う アリ刺繍(Aari embroidery) と混同されることがありますが、
大きな違いは次の通りです。

  • アリ刺繍:表側から刺す (ヨーロッパ起源の伝統的な刺繍。現在はインドでも盛んに作られています)
  • リュネビル刺繍:裏側から刺す

裏側でステッチを作るリュネビルは、糸が表に出ないため、
ビーズそのものの輝きが際立つ軽やかな美しさ が特徴です。


■ 私がリュネビル刺繍に惹かれる理由

ビーズを一粒ずつ留めていくシンプルな作業ですが、完成すると驚くほど繊細で、光の乗り方まで変わるリュネビル刺繍。

針を動かす時間は、自分にとって 心が満たされる、静かで豊かな創作の時間。
刺繍の世界は、葛藤もありながらもいつも私を満たしてくれます。

フランスのアトリエ「ルサージュ」で学んだ経験も含め、
これからも初心を大切に育てながら、自分らしい刺繍作品を作り続けたいと思っています。


参考文献

  • 『はじめてのオートクチュール刺しゅう: リュネビル針でたのしむ パリ コレクションの世界』. 日本文芸社